7章 城下町マージュ
「うーん。どっちにしようかな?」
「清海ぃ、早く決めてくれ。俺だけ先に食ってるとなんか……」
私たちは城下町の観光中。お昼はそれぞれ別々の所で取ってる。
靖と私はたまたま同じ場所だったから同席にしてる。わざわざ別の所にしてもらう必要もないわけだし。
「別に良いよ。うん、こっちに決めた」
自分一人先に食べてると、待ってる人に悪いって、靖って妙な所で遠慮するよね。
私はハヤシライスを注文することに決めた。
靖は私が決めたのを見てからもう来ていたオムライスに手をつけ始めた。
『すいませーん、ヴェイッシュフィズを一つ』
どこの誰だがわからないけど、見事にハモッた。
「同時に同じ物頼んだな」
「そうだね」
靖も食べる手を止めて声の主を探す。
「まさか、同時とはね」
声の主はカウンターからだった。 私たちとそう変わらない子がこっちを見ながら言っていた。
「お。あんたか」
「ええ。でも、初対面の相手にあんたはないんじゃないかな?」
「あー、悪かった」
確かに知らないあんたって言われたらねえ…嫌いな相手ならともかく。
「ごめんねー。ねえ、一人なら一緒に食べない? 私、清海。それでこっちが靖」
私と靖の使ってるボックス席は、ちょうど一つ空いてる。靖のほうには二人分の荷物が置かれてある。
「こっち扱いかよ、おい」
靖がふざけて言い返す。この子とは話が通じそうな気がするし、一人より三人のほうがおいしいよね。
「ありがとう。あたしは光奈」
光奈が私の隣に座った所でタイミングよくお盆にハヤシライスを乗せたウェイトレスの人がやってきてお皿を置いていった。
「じゃぁ食べましょ」
「うん。あ、靖ってばもう食べ終えてる」
私と光奈がハヤシライスを食べてるのを見て靖がうなだれた。ゆっくり食べてれば良かったのに。
「うー、今度は見てるのがツライ」
「何が? 別に見てるくらいで。靖はこれ、嫌いなの?」
光奈って天然ボケ派なのかな。 靖が何か食べたそうな顔してるのに。
「じゃぁ、デザート頼めば? 私はこれだけで良いよ」
「! すみません、コンファレン三つー♪」
シュークリームが三つ来た頃には私も光奈も食べ終えていた。
靖がシュークリームを食べ終えたら集合先の公園に行こっと。
「そういや公園までどう行けば良いんだ? 鈴実はレリと、美紀はラミさんと一緒だからいいけど俺たち知らなくね?」
「あっ……そういえば」
今更気づいたけど、そういうのは最初に気づこうよ! 公園までどう行けば良いかなんて互いに知らないなんて。
レリはラミさんと再会した場所って言ってたから わかってるんだろうけど。私たちだけだよ、こんなお間抜けやったの。
「どこか行きたいんだったら案内するわよ、お二人さん。私この街のことなら隅から隅まで知ってるから」
「助かる! フィーセラ公園ってとこに行きたいんだよ俺たち」
願ってもない光奈の申し出に、もちろん私と靖は案内を頼んだ。
「そこなら、五分も歩けば着くわ。でも、この通りは入り組んでるから迷うと抜けるのに時間かかるけどね」
「へー、通りの裏にはいっちゃったら確かに迷うかも」
絶対光奈とはぐれないようにしなきゃいけないね。
「それと、二人とも丸腰だけど大丈夫? 最近は街にも魔物が現れたりするのに」
「そうなのか?」
「この通りを抜けると武器を売ってるお店もあるわよ。行く?」
平和そうに見えるのに、魔物って現れるんだ? しかも町中に。物騒だなあ。
「武器かー。でも、まずは街の地図を手に入れるべきだろ」
たまに現実性のあることを言うよね、靖は。 確かに地図も必要だよ。
「そうだね。光奈は、地図が何処で売られてるかも知ってる?」
「あら、地図なら私のをあげるわ。もうこの町の地理は熟知してるから」
「え……街の人でも地図を持たなきゃならないくらい、広いの?」
「ええ。そうなのよ」
だったら尚更、私たちは地図なしには到底歩けそうにないなー。
そう思いつつ、ちゃっかり地図をもらってその上、道案内もしてもらってる私たちがいた。
「着いたわよ」
私と靖はレストランで知り合った光奈に町の案内をしてもらって、目の前にあるのはお店。
「あれ? 公園じゃないよ」
これはだれがどう見たってお店。うん、これが公園って見えたら眼科に行かないとね。
「えー、良いじゃん。武器を買う予算くらいあるだろ。買おうぜ」
う。靖の目が輝いてる。……靖って、戦闘マニアで格ゲー好きで武器が大好きで。
剣道やってるのもも木刀を持ってみたいからだなんて理由で入った超単純人間だし。
まさか本物の真剣が手に入れれるかもしれないって思ったら、この輝きに説明はつくけどね。
「相場がわからないんだから駄目だよ!」
財布の紐を私が握ってて良かった。本当に今そう思う。伊達に靖の幼なじみやってないよ、私。
靖に持たせてたら、絶対先考えずに使えるだけ買うのに注ぎ込むのが目に見えてる。
「虎穴に入らずして虎子を得ずってやつだ!」
「大丈夫、私の親戚が経営してる店だから」
「なんだか使い方が違う気がするよ。って二人とも!」
あーもうさっさと靖と光奈がお店の中に入っちゃうし。しょうがないなあ。
私も店内に入ってみると、広い店なのに短刀や薬の瓶とか宝石とか幅広い品揃えが目に付いた。
それもたくさんの物が床から天上まで、ずっしりと並べられてある。まるで図書館の本棚みたい。
靖は剣とか槍が置かれている場所に釘づけで、感嘆の声をあげてる。
私は入ってすぐ、右の棚に置かれている宝石に注目してみた。魔石って説明の紙に書かれてある。
“取り扱いにはご注意を 落すと込められた魔力が放出されます。
お買い上げの際は必ず店員をお呼びください────店主より”
宝石全部の説明書に必ずそう書かれていた。つまりそれってどれも危険物ってこと?
あ、武器を取り扱ってる時点ですでに危ないよね。
店の奥にまで入っていくと、カウンターに光奈がいた。今は誰もいないのかな?
「ヒラファーさん、お客だよ!」
「はーい。いらっしゃい、光奈ちゃん」
返事と共に、お店の人が出てきた。ん? 何だかこの声一回聞いたことあるような。
でも、その顔には覚えがない。……ま、いっか。単に声が似てただけなのかも。
それに、この際だから私も何を武器を買おうかな? 扱えそうもないけど。
「丸腰なの、この二人。何か売ってあげてよ。護身用で良いから」
「ええ、そうね。でも女の子に剣とかは無理よね……となると」
とか何とか2人が言ってるうちに、何故か私の手元には鉄の棒。見ために反して軽い。
大丈夫かな、折れたりしない? こんなのどうやって扱えばいいのかな。
とりあえず振りまわすしか思いつかない。あるだけマシかも知れないけど。
靖はしっかりと剣を買わされてる。私も、扱えなくても良いから剣にしておけば良かったかも。
「うん、これで良いでしょ。使い方はねー」
ところで今何時だろう? 自分の腕時計を覗くと、一時五十分過ぎだった。集合の時間は二時。
「あーっ、靖、もう時間がないよ!」
うー、お金と時間を無駄使いしたような。……これ、ラミさんからもらったお金なのに!
私は地図で現在地を確認してから、剣に見惚れて動かない靖を引っ張りながら目的の公園へと急いだ。
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